2013年4月29日月曜日

スピンク合財帖

スピンク合財帖 町田 康 ISBN4062180006 講談社

スタンダードプードルであるスピンクの一人称によるエッセイ集第2弾。 「合財帖」という言葉はあまり聞き覚えがないし、ぐぐってもこの本しか 出てこないんだけど、まあ、一切合財適当につめこんだノート、ぐらいの 意味なのかな。

スピンク、キューティに加え、トイプードルのシードも参入。 全然登場しないけど、他にも猫が何匹かいるらしい。大変なものだ。

文章のリズムが実にキチガイじみていて面白い。 この文体、どこかで読んだことがある、と思ったら、 どこかの広報誌で読んだ「熱海超然」の人だったか。。 改題されて「どつぼ超然」というタイトルで単行本化されている ようなので、こちらも読んでみたい。

スピンク合財帖
スピンク合財帖
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町田 康
講談社
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2013年4月28日日曜日

一般意志2.0 ルソー、フロイト、グーグル

一般意志2.0 ルソー、フロイト、グーグル 東 浩紀 ISBN4062173980 講談社

「動物化するポストモダン」で知られる思想家による論考的エッセイ。 本人が論文ではなく、エッセイであると書いている。実際とても読みやすい。 講談社の「本」に連載したものに加筆したもの。 冒頭に、あの東日本大震災の直前に完結したもので 今書くとしたら全然別の内容になるだろう、というようなことが書かれている。

私が把握した内容はこんな感じ。

  • 個々の意思の集合から、議論を経ることなく、いきなり立ち上がる「一般意志」は、集団の無意識のようなものである。ルソーはこの一般意志が共同体の主権者であると主張した。
  • ルソーの時代には、「一般意志」を機械的に抽出する機構が存在しなかったが、今は存在する。「ツイッター」や「ニコニコ動画」のコメントなどの、ほとんど反射的に書き込むメディアがそれである。 とはいえ、この「一般意志」が直接政治を行なうことは不可能である。
  • インターネットやSNSの発達によって、人的交流が促進され、 ひいては熟議が促進されるという議論は古くからあるが、 実際にはSNSでは似たような人間がクラスタを形成し、個別の島宇宙化して しまうので、実は議論の深まりにはまったく結びつかない、
  • さらに、個々の問題が複雑になりすぎ、議論に参加するだけで 非常に高度な知識を要求される ようになった現在、一般市民による熟議は事実上不可能である。
  • また、「熟議による民主主義」は、構成員がある程度の基盤を 共有していることを暗に前提にしているが、社会の多様化、複雑化により この前提は崩れている。現に、2chではまともな議論が成立していない。
  • したがって、代議員による熟議という形を今後も取らざるを得ないが、 その際に、議論を広く公開し、機械的に抽出された「一般意志」を フィードバックすることによって議論にある種の抑制を行なう ことが現実的ではないか。具体的には「ニコニコ生放送」を さらに洗練させ、タグクラウドや頻出語を議論参加者に 提示する。議論参加者は提示された内容を完全に無視することも できるが、現実にはかなり難しく、議論の方向性に一定の枠をはめる ことになるだろう。

平易でわかりやすく、面白かった。 ツイッターとミクシィ、フェイスブックのアーキテクチャの微妙な違いが、 社会における役割の決定的な違いに結びついている、という観察はさすが。 そうとなれば、意図的にデザインする事もできそうだが、 流行ってくれないとどうにも意味が無いからなあ。。

一般意志2.0 ルソー、フロイト、グーグル
東 浩紀
講談社
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2013年4月26日金曜日

ニューラルネットワーク情報処理―コネクショニズム入門、あるいは柔らかな記号に向けて

ニューラルネットワーク情報処理―コネクショニズム入門、あるいは柔らかな記号に向けて 麻生 英樹 ISBN4782851243 産業図書

なぜか本棚にあった1988年初版の本。私のは1990年の7刷。いつ買ったんだろう。。 著者は現在の職場の同僚の麻生さん。あの甘利先生のお弟子さんである。

ニューラルネットにはこれまでに2回ブームがあったと言われている。 1回めはパーセプトロンが流行った1960年前後、 2回めがバックプロパゲーションによる1980年台後半のブーム。 洗濯機にもニューロがついてたような。。ニューロアンドファジー。 あれは一体何だったんだろう。 ともあれ、この本はその2回目のブームの最中に書かれたもの。

実はニューロはDeep Learningというので今また盛り上がっているので、 初心に戻って勉強しようと思って掘り出してきた。 200ページ足らずだが、情報量はかなり多く、このころのパースペクティブをつかむには十二分。 というか、主要なアイディアはこの頃にはすべて出尽くしてるんじゃないの?という感じすらある。

教科書としてみると、もう少し優しく書いて欲しい感じ。 サンプルが全然無いので、式の意味が理解し難い。 もう少し丁寧に説明されていたらもっとずっと読みやすいのに。

しかし、4半世紀前の本が未だにamazonで入手可能っていうのはすごいな。。 こういう本を書きたいものだ。

2013年4月25日木曜日

あわせ鏡に飛び込んで

あわせ鏡に飛び込んで 井上 夢人 ISBN4062761653 講談社文庫

岡嶋二人の片割れであるところの井上夢人による短篇集。 瞬間接着剤があまりにも恐ろしい「あなたをはなさない」、 妻と共謀して入れ替わり殺人を犯した犯人の心に妻への疑念が湧く「ノックを待ちながら」、 FBIと敵対するギャングからの監視を逃れるために宅配業者に成りすます「サンセット通りの天使」、 下宿人が次々と消息を断つ「空部屋あります」、 警備員が大金を窃盗し相棒に罪を追わせようとするが、相棒も実は、、という「千載一遇」、 死なない薬を発明し、自ら実験した研究者を襲う恐怖「私は死なない」、 対話する人工知能を2台の計算機上に作成する「ジェイとアイとJI」、 妻を医療ミスで失った芸術家が医師に復讐する「あわせ鏡に飛び込んで」、 恋人からの別れの留守電を恋敵に転送したら恋敵が自殺してしまった「さよならの転送」、 元教え子の夫君との往復書簡で構成された安楽椅子探偵もの?「書かれなかった手紙」の9編。 この人、上手いのになんでもっとたくさん書いてくれないのかなあ。

あわせ鏡に飛び込んで (講談社文庫)
井上 夢人
講談社
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2013年4月24日水曜日

家日和

家日和 奥田 英朗 ISBN4087465527 集英社文庫

家をテーマにした短篇集。 オークション出品にハマる主婦を描く「サニーデイ」、 会社の倒産で主夫になった男を描く「ここが青山」、 妻との別居を機に男の城を築いてしまう「家においでよ」、 主婦の妄想を描く「グレープフルーツ・モンスター」、 夫が起業するとアイディアが湧くイラストレータの「夫とカーテン」、 ロハス妻に悩む作家の「妻と玄米御飯」。

いつもながら、心の微妙な動きを描いてたくみ。 新築マンション相手のカーテン屋は本当に儲かりそうな気がちょっとするけど 実際どうなんだろう。玄米ご飯は個人的には抵抗ないけどなあ。あ、カレーには合わないかも。

家日和 (集英社文庫)
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奥田 英朗
集英社
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スピンク日記

スピンク日記 町田 康 ISBN4062168030 講談社

パンクロッカーであり、芥川賞作家でもある町田康による脱力エッセイ。 プードルのスピンクの一人称で、飼い主である主人・ポチとその奥さん美徴さん、 兄弟のキューティとの生活を描く。プードルと言ってもいわゆるミニチュア・プードルではなく スタンダード・プードルなので、実は相当大きいらしく、主人の服を噛み破ったりしてる模様。 それでいいのか。自虐的な視点がおもしろい。奥さんもただものではない。

講談社の情報誌「本」の連載をまとめたもの。この「本」は連載が粒ぞろいなのに ただなのでおすすめだ。最近なかなか入手できないけど。。

スピンク日記
スピンク日記
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町田 康
講談社
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2013年4月17日水曜日

敵は海賊・海賊の敵

敵は海賊・海賊の敵 神林長平 ISBN4150310939 ハヤカワ文庫JA

海賊よりも海賊的な海賊課のラテル(人間)、アプロ(ネコ型異星人)、ラジェンドラ(宇宙船)の3人(?)組が、 伝説の海賊匋冥を追うシリーズ、六年ぶりの新刊だったらしい。

伝説の聖剣を奉じる宗教国家に、匋冥教なる異端宗教が興る。 この国の巫女の弟が匋冥教を信じて匋冥を追い行方不明になり、巫女は海賊課に助けを求める。 一方、神に祭り上げられることを許さない匋冥は匋冥教を滅ぼしにかかる。

まあ、いつもながらの敵は海賊である。ラジェンドラの述懐という形になっていて 1ページ目だけ横書きになってるのが妙に新鮮だった。。

敵は海賊・海賊の敵 (ハヤカワ文庫JA)
神林長平
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2013年4月14日日曜日

まぐれ―投資家はなぜ、運を実力と勘違いするのか

まぐれ―投資家はなぜ、運を実力と勘違いするのか ナシーム・ニコラス・タレブ ISBN4478001227 ダイヤモンド社

「ブラック・スワン」と同じ著者の先行する著作。 こっちも面白いといえば面白いのだけど、 「ブラック・スワン」のほうが後から書かれているだけあって 議論が整理されているので、あとからこっちを読むことにはあまり 意味はなかったような。。ちょっと失敗。

まぐれ―投資家はなぜ、運を実力と勘違いするのか
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2013年4月9日火曜日

Running Pictures: 伊藤計劃映画時評集 1

Running Pictures: 伊藤計劃映画時評集 1 伊藤 計劃 ISBN4150310912 ハヤカワ文庫JA

夭逝したSF作家伊藤計劃がブログに書きためた映画評論をまとめたもの。 2巻構成の予定で、1巻は1998年から2000年。

とにかく、映画への愛にあふれている。この人映画好きだったんだなあ、と。 凡作や愚作には痛罵をあびせているのだけど、逆に見に行きたくなる。 ちなみにこの本で一番けなされてるのは、「ゴジラ2000ミレニアム」。 確かにどこをどう見てもひどい映画だったからな。。。

紹介されている約50本の中で私が見たことがあるのは、わずか12本。 もっと見ないとなあ。。しかし、わずか3年の間に50本もの語るべき映画が 存在するっていうのも、考えてみればすごいことだ。1本ごとにすごい コストがかかっているのにね。

Running Pictures: 伊藤計劃映画時評集 1 (ハヤカワ文庫JA)
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2013年4月8日月曜日

新装版 まぼろしの邪馬台国 

新装版 まぼろしの邪馬台国  宮崎 康平 ISBN4062761351, ISBN406276136X 講談社

1970年台の邪馬台国ブームを巻き起こした本を80年台に改定した新板をさらに文庫化したもの。 盲目の著者が妻の助けを借りて歴史の謎を解き明かす、ってことなのだろうけど、 読んでみるとなんというか、「トンデモ本」の匂いがプンプンする。 それは、議論の内容ではなく、そこここで、現在日本の風潮を嘆き、 学会の偏屈さを嘆き、同業者の剽窃を指弾し、 日本の将来を憂う、実にうざったい文章の構成から立ち上ってくるのだろう。

主張のポイントは、日本書紀、古事記に書かれた漢字にとらわれず音素だけを見て解釈すべきだ、 という点。それなりに説得力があるのかもしれないけど、結局最終的に比定した邪馬台国の場所が 著者の郷里である島原半島だというのでは、なんとも説得力に欠ける。。。

読んでみて、なぜあの頃邪馬台国のブームが起きたのかは、なんとなくわかった。 戦時中はイデオロギー的に議論が封殺されていたのが、重しが外れたということなのだろう。 近畿ではなく、九州に持っていったのも、戦時中の「正史」に対する反動なのだろう。

この本を読んで思い出したのは、清水義範の「序文」。 ある市井の学者が発表した奇天烈な書籍の、それぞれの版の序文だけを集めたものという趣向で、 著者は版を重ねるごとに傲慢になっていくが、死後すべての学説が否定されたことが明らかにされるというもの。 この人の学説がその後どのように検証されたのか知らないが、やっぱりもう少し謙虚に書いたほうが なにかといいんじゃないだろうか。

新装版 まぼろしの邪馬台国 第1部 白い杖の視点 (講談社文庫)
宮崎 康平
講談社
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2013年4月7日日曜日

SPACE BATTLESHIP ヤマト

SPACE BATTLESHIP ヤマト

出渕ヤマトがテレビ放映される記念ということで、 キムタクヤマトを見てみた。 これはまた、なんとも苦しい。

キャストは(主役はともかく)豪華。緒形直人の島、柳葉敏郎の真田さん、 山崎努の沖田艦長なんかはぴったりだ。 ストーリーは原作の1をベースに、最後に「さらば」を混ぜた感じ。 ガミラスに肉体がないという点を除けば、忠実な実写化だといえる。 キムタク古代があんまりといえばあんまりではあるが、 どんな役をやらせても「キムタク」にしかならないキムタクを 使った時点でこうなるのは目にみえていたわけなので仕方がない。

各要素ごとに検討すると、まあしかたがないかな、という感じなのに、 全体としてみると完全に失敗という感じがするのは、 映画としてだれに向けて作っているのかが非常に曖昧に なってしまったからではないだろうか。キムタクファンだけを相手に していれば、それはそれでよかったんだろうけど、古くからのヤマトファンを あまリ邪険にするわけにもいかず、どっちつかずになったと。

いや、それだけじゃないか。やっぱりベースラインの映画としての 作りがあまりにやっつけなのが敗因なのか。

SPACE BATTLESHIP ヤマト プレミアム・エディション 【Blu-ray】
TCエンタテインメント (2011-06-24)
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2013年4月2日火曜日

ブラック・スワン―不確実性とリスクの本質

ブラック・スワン―不確実性とリスクの本質 ナシーム・ニコラス・タレブ ISBN4478001251,ISBN4478008884 ダイヤモンド社

金融技術の基礎となっている統計は事象がガウシアン分布に従うと仮定しているが、 実際にはガウシアンとかけ離れたべき分布に従っているので、ガウシアンを仮定した 統計による予測は無力であるどころか有害である、と説く。 この本は、サブプライム危機の直前にでているのだけど、それを予言するかのような 事が書かれていてドキッとする。

著者の主張が正しいとすると、ここ何十年かのノーベル経済学賞は 全部砂上の楼閣に捧げられたようなものだということになるのだけど、 さて、どうなんだろうか。っていうか、そもそもなんでノーベル賞に 経済学賞があるんだっけ??

読んでいて大変面白いのだけど、もう少し精密に議論して欲しいという 点も何箇所か。と言っても精密に議論されてついていけるのかどうか、わかんないけど。。

結局、著者の主張をまとめてみると、ガウスで予測することができないものが大半だから リスクが計算できるなどとおごった考えを持つな、ってことなのだろうか。。 一回り回ってごくおとなしい警句になってしまっているのも、なんかおかしい。

ブラック・スワン[上]―不確実性とリスクの本質
ナシーム・ニコラス・タレブ
ダイヤモンド社
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ブラック・スワン[下]―不確実性とリスクの本質
ナシーム・ニコラス・タレブ
ダイヤモンド社
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